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流されるまま父親と同じ道を選んだものの、マシューには執事に対する情熱はない。
おまけにたとえ主人であっても遠慮のないその物言いから、雇用主とのトラブルも絶えず、
彼の所属する英国執事協会にとっては頭痛の種とも言うべき存在であった。
そして例のごとく問題を起こし雇われ先をクビになったマシューは、
ある日執事協会から新しい赴任先を紹介される。
かつて名門と呼ばれたアシュレイ子爵家が、有能な新しい執事を求めているというのだ。
半信半疑ながらも屋敷を訪れたマシューの前に現れたのは、錆付いた門柱、
埃の積もった床や絨毯、ちっとも働かずおしゃべりに暮れるメイドたち……。
「どうなってんだ、この屋敷は……?」
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それが物語の始まり。
マシューはまだ知らない。自分が物語の中心に据えられてしまったことを。
ただの落ちこぼれ執事の彼に、今にも消え去ってしまいそうな子爵家の未来が委ねられてしまったことを。
19世紀末――ヴィクトリア王朝と呼ばれた英国の、最後の輝きを秘めた時代。
これは、そんな時代の英国の首都・ロンドンの片隅、どこにでもある零落した子爵家・アシュレイ家を舞台に、
落ちこぼれの執事とお嬢様とメイドさんたちが繰り広げる、小さな恋のおとぎ話……。 |
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